【開催中】鳥本 潔 絵画展

わたむきホール虹

2015年06月01日 17:40

みなさん、こんにちは
日によっては、街をゆく人の姿が
タンクトップにビーチサンダルで
頭にはつばの広い帽子・・・と
もう夏としかいえない眺めになる今日この頃。
このあとに梅雨が来るなんて
何だか実感がわきません。

家の中が暑すぎて疲れる日には
気軽に来られる最高の避暑地、
わたむきホール虹の美術ギャラリーにて
美しい作品と静かに向き合うひとときを
お過ごしください。
新しい展覧会が始まりました。

鳥本 潔 絵画展
~時代とともに
変化していった絵画~

5月28日(金)~6月14日(日)




美術大学で絵を学ばれた後、
印刷会社でデザイン制作のお仕事をされ
その会社を退職された現在も画家として
活動を続けておられる
鳥本潔(とりもと きよし)さんの絵画展です。
鳥本さんのお写真はこちらです。




また、今回は賛助出品として、
日本画家の山田水雲さんによる
味わい深い書の作品が4点展示されています。



さて、繰り返しになりますが
今回の展覧会タイトルは
「時代とともに変化していった絵画」
というもの。
この言葉の意味は、
まず会場に足を踏み入れていただけば
お分かりになると思います。



制作年代によって、使用されている技法も違えば
画風そのものも大きく異なる様々な絵が
1人の画家の手による作品群として
展示されているからです。


(鳥本さん)「よく、『それぞれ違う人の作品やろ』って言われますよ」


鳥本さんの画風の変遷としては
大きく3つの時代があるようです。
まず1つめが、美術大学時代。
そして、デザイン制作をされていた時代。
最後に、現在。


変化を繰り返してこられた
それぞれの画風のお話を
ゆっくりとお楽しみください。



―こちらが、美大の頃の作品ですね―




「この頃は油絵をやっていました。
自分の好きな色を出すために、
ほとんど格闘していたような感じでしたね」



中学生の頃、水彩絵の具であまり水を使わず
絵を描いていたら
「油絵のようになっている。(画風が)ませてる」
と言われたことがあるという鳥本さん。
美大ではその油絵に思いきり取り組む日々を
過ごされたようです。


―色が渋いというか、何重にも重なった末の
色、という感じですよね―



「この色になるまでにね、
いっぱい絵の具を使ってるんですよ(笑)
もうこの時は必死でやってました」






絵に近づいてみると、
重ねられた絵の具の量と、筆やナイフの跡に
「格闘」の痕跡を見ることができます。


やがて大学を卒業される際、
鳥本さんが直面したのが、
就職の問題でした。


「ちょうどオイルショックの
時代にあたりまして
就職がないわけです。
美大出身で出来る仕事というので
ある印刷会社のデザイン制作の
仕事に就いたのですが」



その時代の作品がこちら。




「デザインの仕事は、23,4歳から
35、6歳までやっていました。
油絵からアクリルに転向したのは
この頃です。
この時代の間にデザイン展を
4~5回やりました」



―この頃の作品は先進的というか
挑戦的で大胆でもありますね―



「いや、この頃は子どももいたし、
デザインで食べていかなければ
いけませんでしたから必死でした。
当時の社長も、作品の出来で
仕事を評価する人でしたので。
またデザインは、それまでやっていた
洋画とはまったく違うものでした。
絵をやっていた分、何とかなると
甘く見ていた部分があったので、
大変でしたね」




(「道」をテーマにデザインを求められた際に制作されたもの。京都の「道」と、芸の「道」に励む芸妓さんが画面に配されています。)


鳥本さんがデザイン制作をされていた時代、
日本はバブルがもたらす好景気に沸いていました。
大胆で、遊び心を感じる作品の中に、
あの頃独特の空気感を
お感じになる方もいらっしゃるのでは
ないでしょうか。



最後に、10年ほど前から現在までの
作品についてお伺いしました。
今、鳥本さんは、日本画のモチーフに
心を寄せられているそうです。
今回、会場に訪れる人々の目を、
ひときわ惹きつけている作品がこちら。




「次女の成人式の姿です。
これは実際に着ていた着物とは
違うんですけれども。
着物のサンプルの中にあった柄で」


―色のトーンが明るく、軽くなっていますね。
構図に感じるデザインの感覚が、上品で素敵です―



「赤をこんなに強烈に描いたのは
はじめてですね。
成人式のときの娘の印象が強かったもので。
あと、今もアクリルを使っているのですが
もしデザインをやっていなかったら
アクリルを手に取ることはなかったです」



近年描かれることが多いという
「和」のモチーフについては
“(人物画なら)和装の微妙な色味を
表現するのが難しく、苦労します”

仰る鳥本さんですが、
“出したい色が出るまで格闘していた”
油絵の時代と比較すると
色が迷いなく、軽やかに選ばれている印象です。
また、構図も自然でありながら
インパクトの強いものになっています。



―学生時代、デザインの時代、そして現在と
絵をお描きになっている時の気持ちに
何か変化はありましたか?-



「うーん、今のほうが自由に表現できますね。
学生の頃は、与えられた課題を表現していました。
デザインをやっていた頃は、
テーマに沿ったものを表現しなければなりませんでした。
今は、自分の描きたいものを描けますから」



―手法や画法については、今の形が
今の鳥本さんにぴったり合ったものと
いうことですか―



「そうですね。今は主観がこういう絵の形です」




鳥本さんのお話の中で、新鮮に感じたのは
「画風や手法が変わること自体を
特別なこととは思われていない」
点でした。
それよりも、どの時代のお話をされる時にも
“必死だった”“格闘していた”と言われるのを
聞いているうちに
絵の形の変遷がそのまま、鳥本さんが
絵を描きながら手探りで探し当ててこられた
誠実な人生の道筋そのものに見えてきました。






最後に、来場される方にメッセージをいただきました。

「いろいろな作品がありますけれども
本当に、私1人が描いているものですのでね(笑)
いろいろな形の絵を、お楽しみいただけたらと
思います」



今回の展覧会、もちろん全ての年代の方に
お越しになっていただきたいのですが、
人生の忙しくも充実した時期をひと巡りされた
「大人」の方の目には、より作品が味わい深く
映るのではないかと思います。
ご夫婦で、ご友人同士で、またお一人でじっくりと
鳥本さんの絵をご覧になってみてください。



(賛助出品の山田水雲さんの書。精緻な筆で描かれる日本画とはまた趣のちがう、見ていると心がやわらかくほぐれるような作品です)


(6月2日(火)・6月5日(金)・6月9日(火)は休館日です)


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