【開催中】 野本佳子 日本画展
みなさん、こんにちは
季節外れの台風が次々とやってきますね。
大きな被害も出ており、
圧倒的な自然の力を繰り返し、
見せつけられるような気持ちです。
この数年、自然は人間に厳しくなった…。
そんな風に感じるまさに今、
ぜひご覧になって頂きたい作品が
現在、わたむき美術ギャラリーに
展示されています。
野本 佳子 日本画展
「野草に魅せられて」
10月18日(金)~11月3日(日)
「野草」のみをモチーフに、
30年近く日本画を描いてこられた
野本佳子さんの作品展です。
しかし、会場に入ってしばらくの間は、
ここに描かれているのが全て
「そこの道端に咲いている小さな野の花」
だと、お気づきになれないかもしれません。
なぜなら、野本さんの画の中の野草はみな、
どんな観賞用の花よりも強く大きな
存在感を放っているからです。
そして、作者の野本さんのお話もまた
小柄なお姿に秘められた
巨大な想いを感じるものでした。
(野本佳子さんです!)
子どもの頃から絵が好きだった、
そう仰る野本さん。
油絵を経験した後、大津絵を学んだそうです。
筆の練習を重ねるうち、どうしても
一筆書きで野の花を描いてみたくなり、
本格的に日本画をはじめることになります。
「最初に師事した創画会の阿辻修身先生は
2年間、鉛筆しか持たせてくれませんでした。
丸2年間、デッサンだけの日々。
全然ほめてくれないのよ(笑)
その2年が終わったら、
はじめて色を使っても良くなったの」
(“イヌタデ”という野草を描いた作品『まっ赤に染まる』)
当時、日本画をはじめたばかりの野本さん。
それでもそこから10年足らずの間で、
様々な美術展に出展を重ね、
たくさんの賞を受賞していきます。
しかし、それは家庭の主婦業とともに、
自営業の仕事を行う傍ら、積まれた研鑽でした。
また、12年前には脳こうそくで倒れ
しばらく病床で画を描いておられたとのこと。
野本さんにとって、日本画を始めてからの日々は、
多くのエネルギーを必要とする
濃密な毎日だったようです。
…その濃密な10数年間に、
いったい何が野本さんを突き動かして、
画を描かせてきたとお感じですか?
と、伺ってみました。
野本さんの答えはこうでした。
「それは、野草への執念ね」
“執念”という激しい表現に
少なからず驚きを感じましたが、
野本さんはそのまま話を続けられます。
「私は、野草を描くことに使命感を
感じているの。
だって、他に描く人いないもの。
花の命は一週間しかないのに、
野草なんて顧みられることもないでしょう」
(綿毛になっているタンポポが主役の作品『また 来年』)
野本さんの描いてきた“野草”は、
希少な日本の固有種と呼べるものから
そこにあるのが当たり前すぎて
“雑草”として扱われてしまうようなものまで
実に300種を超えます。
「この“夏草 花づくし”という画には、
伊吹山の野草が描かれています。
例えばね、この真ん中の赤いのは
“アキノウナギツカミ”
って言うのよ。面白いでしょう」
「この小さな白い点々の花はヨモギノハナ。
…自然の配列ってすごいわね。
葉っぱの緑にひかれて目をやったら、
葉っぱの周りの野草全てが画になってたの。
まるで私に“描いてくれ”と言ってる
みたいでね」
丁寧な野本さんの筆で描かれた野草は
どの花がどうと言えないくらい
全て愛らしく、
「かわいい花ですね」と伝えると
野本さんは本当に嬉しそうな表情をされます。
御自身の画についての評価よりも、むしろ
「この花の可愛らしさに誰かが気付いた」
ことを、心から喜ばれているようです。
野本さんにとって、
「野草」とはどんな存在なのでしょうか。
「野草はね、私にとって、
“人生”を教えてくれるもの。
野草のように生きたいと思っているの。
同じ場所でじっと耐えるということ。
華やかな存在じゃなくていい、ということ。
小さな命なのに、とても強く在るということ。
みんな野草が教えてくれるんです」
(キリン草、ミゾソバ、その下にわずかに覗くヨメナを描いた『叢~くさむら~』。この景色があった場所には今はバイパスが通ってしまったそうです)
そう遠くない昔、この日本には
誰に教えられるでもなく、
目の前の木や草花から、生きることに必要な
全てを学び取るという精神風土がありました。
それぞれの植物が持つ栄養や薬効、
植物の姿から知る季節や天候の微妙な変化、
そして、生物としての命の在り方から
終わり方にいたるまで。
野本さんが持つ野草へのまなざしは、
かつては人々がみな、
親から子へ、子から孫へと
代々受け継いできたものに違いありません。
最後に、野本さんより
来場される方へのメッセージを頂きました。
「名も知れないお花を
どうか見てあげてくださいね」
見る方それぞれの記憶の中にある
草花の景色がよみがえるような
素敵な展覧会です。
ぜひ、多くの方にご覧になって頂きたいと思います!
(10月22日(火)・10月29日(火)は休館日です)
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